活字紀行

自分自身に満足を。つらつらと書評ブログ。Twitter@sh1roha_468

護られなかった者たちへ【書評】

こんにちはしろはです。
今回は『護られなかった者たちへ』(中山七里/著)を紹介します。
※本文にはネタバレを含む場合がありますので、ご注意ください。

 

 

あらすじ

仙台市の保健福祉事務所課長・三雲忠勝が、手足や口の自由を奪われた状態の餓死死体で発見された。
三雲は公私ともに人格者として知られ、怨恨が理由とは考えにくい。
一方、物盗りによる犯行の可能性も低く、捜査は暗礁に乗り上げる。
三雲の死体発見からさかのぼること数日、一人の模範囚が出所していた。
男は過去に起きたある出来事の関係者を追っている。男の目的は何か。
なぜ、三雲はこんな無残な殺され方をしたのか? 誰が被害者で、誰が加害者なのか。(本書より引用。)

 

人物紹介

笘篠誠一郎:県警捜査一課。拘束した上で餓死させる事件の犯人を追う。
三雲忠勝:福祉保健事務所の課長。善人として慕われた。餓死した状態で発見される。
城之内猛留:人格者として認められていた。三雲と同じく手口で殺されてしまう。

 

感想

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今回は社会保障制度が絡んだ社会派ミステリーです。
日本の社会保障制度(特に生活保護)がこれでもかと題材に挙げられます。

ミステリー作品として

最初に登場する二人の被害者は人から恨まれるような人ではないと幾人からも説明されます。
では犯人の目的は何なのか、どういう人物なのかという所から物語は進んでいきます。

手足や口の自由を奪った上で餓死させるという残虐な犯行手口から、犯人はいったいどんな凶悪な人物なんだと思わずにはいられません。
ただ、何かしら特別な目的はありそうだと感じます。

私は犯人像よりも、生活保護の問題が頭の中をぐるぐる回ってそれどころかではなかったですが…。

生活保護制度

本書の大きなテーマに生活保護があります。
社会派ミステリーならではの実在する問題が題材とされています。

生活保護はこの精神に則った、最低限の暮らしと自立を保障する制度なんです。水道光熱費にも事欠くような人が遠慮したり、逆に働ける人が制度の上に胡坐をかいたりするものではないんです。

福祉保健事務所の職員もこのように説明しています。
ミステリー作品らしくいったい誰が犯人だろうか、と考えるだけでなく生活保護の実態について考えられる作品となっています。

読了後は事件が解決して良かった、というだけでなくどこか重い気持ちになりました。
正に"社会派ミステリー"を象徴する一冊でした。

 

ネタバレありのコメント

(ここからはネタバレを含みますのでご注意ください。)

なんとなくこの"カンちゃん"という人物が犯人ではないかと考えていましたが、福祉保健事務所の丸山という人物が同一人物とは思いませんでした。
本来なら生活保護を受けるべき人物に対して、献身的に寄り添う姿を見て善人だと思い込んでしまったことが原因ですかね。

ただ、犯人はなぜ8年もの歳月を待ったのでしょうか。
もしかしたら描かれていたのかもしれませんが、私には読み解くとこができませんでした。
利根の仮釈放が遅れていたら被害者が増えていたかもしれないと思うとゾッとしますけどね。

犯罪は容認できることではありませんが、彼が最後にSNSに残した犯行声明は思わず何度も読み返しました。
一体何が正しいのか、どうすれば良かったのか。
護られなかった者たちに対して、何かできることはないのかと考えずにはいられませんでした。

本書では、今国が抱える生活保護受給者は二百六十万人を超える数がおり、今後も増え続けるとのこと。
現実をそむけたくなるような話ですが、決して他人事ではないんだなと痛いほどわからされてしまいました。

 

社会保障制度とかの独り言

これもまぁ最近何かと言われていますよね。
コロナ禍になって伯爵がかかったような気がしますが、絶対に解決しなければならない問題ですよね。
この作品を読んでどうすればいいのだろうと考える機会になりました。

とは言っても、私自身はまだまだこの手の知識がないため、勉強もかねてこの本も読みました。

ベーシック・アセットという考え方すら知らなく、とても良い勉強になりました。

ベーシック・アセットとは

当事者の事情に適したサービスと所得補償を実現し、人々が積極的に社会参加できる条件を提供していくこと

この考え方に基づいた保障がベーシック・アセットです。
最近だと、やれベーシック・インカムだのベーシック・サービスは聞く癖にこの言葉は知りませんでした。
社会保障の改善としてどのような考えがされているのかを知る良い機会でした。

 

シミュレーションとしてはこのような推測もされているようですね。

2040年には未婚、離別の高齢単身女性の四割が生活保護受給水準以下の収入に落ち込む、というシミュレーション結果がある。

これゾッとしませんか?
のらりくらりと暮らし、どこか他人事と思っていてはダメなんだと思わされてしまいました。

新しい生活困難層

新しい生活困難層が直面する事柄として以下の三つが挙げられています。

  • 多様な複合的困難であること。
  • 働く困窮層あるいはワーキングプアとなっていること。
  • 高齢世代を含んだ世代横断的であること。

自分は関係ない、自分は国に頼る資格はないと心のどこかで思い、自分が保障を受けようと思った時にはすでに手遅れ。
(私も含めてですが、)どこか自分は関係ない、彼らにしてあげられることは何もないと考えてしまうんでしょうね。

このような表現もされています。

貧困リスクに関しては人々は依然として自分は無縁と思いたい。困窮に陥っている人々相互の間でも、「彼らとは違う」「自分のほうがまし」という反応がうまれる。逆に「彼らだけが優遇されている」という不信感を抱きがちになる。

一部の生活保護受給者のせいで生活保護がどこか悪だとされていることが表現されているようで、なんだか悲しくなりました。


ではこの社会保障問題をどう解決すべきなのか。

明確な回答は行政や専門家ももたないため、この問題を必ず解決できる保証はどこにもないのだということが痛いほどわかりました。

必要なのは、(中略)一人ひとりに最適なサービスや所得保障との組み合わせについて、当事者が専門家とも相談し協議しながら選択できて、場合によっては試行錯誤ができる仕組みができることである。

言うは易しなのは百も承知ですが、少しでも生活の不安が払拭されることを切に願うばかりです。
少なくとも、自分が手を差し伸べられる人だけでも寄り添えるような人になりたいと思いました。

そして、バトンは渡された【書評】

こんにちはしろはです。
今回は『そして、バトンは渡された』(瀬尾まいこ/著)を紹介します。
※本文にはネタバレを含む場合がありますので,ご注意ください。

 

 

あらすじ

幼い頃に母親を亡くし、父とも海外赴任を機に別れ、継母を選んだ優子。
その後も大人の都合に振り回され、高校生の今は二十歳しか離れていない“父”と暮らす。
血の繋がらない親の間をリレーされながらも、
出逢う家族皆に愛情をいっぱい注がれてきた彼女自身が伴侶を持つとき――。(本書より引用。)

 

人物紹介

森宮優子:家庭環境が7度変わった経験をもつ。しかし本人は全然不幸ではないという。実母は事故で亡くしている。
森宮壮介:現在の優子の父親。高学歴大企業務めだがかなりのくせ者。
水戸秀平:優子の実父。ブラジルへの異動を経て優子と離れ離れになることに。
梨花さん:優子の2番目の母親。同じ場所に留まっていたくない性格。
泉ヶ原茂雄:優子2番目の父親。社長であり、家にはピアノがある。

感想

paper thing 
今回はとても変わった家庭環境で育った一人の女性に焦点を当てた作品です。
高校生にして、7回も家庭環境が変わっているのに不幸だと感じないなんて凄すぎませんかね。
優子はなんてたくましい人なんだと何度思ったことか。
自分が同じ立場にいたら、多少なりとも性格が歪んだり家族仲が悪くなったりすると思いますけどね。

学生生活ではクラス対抗の合唱コンクールがあります。
優子のクラスでは「ひとつの朝」を歌うことになります。
実際に歌詞が出てきて、なんだか当時を思い出して懐かしい気持ちになりました。
他の合唱曲でも、「虹」や「大地讃頌」、「糸」が出てきます。
どこか懐かしい方もいらっしゃるのではないでしょうか。

読了後には、思わずYouTube色々な合唱曲を聞いて感傷に浸っていました。
当時の私は、尊敬する先輩のクラスが「手紙」を歌っていて非常に感動したのを覚えています。
何年も経った今聞いてもなんだか鳥肌が立ってしまいました。

さて、優子は森宮さんが朝ごはんからかつ丼だの、連日で餃子三昧にしても文句言わないんですか。
森宮さん、性格濃いなぁ。でも優子のことをよく考えているのは良く伝わってきました。
これがまたいいセリフを言うんですよ。
2つ紹介します。

自分の明日と、自分よりたくさんの可能性と未来を含んだ明日がやってくるんだって。親になるって、未来が二倍以上になるってことだよって。明日が二つにできるなんて、すごいと思わない?

確かにすごいって思うわ、親になったことのない私は思わず唸ってしまいました。

自分より大事なものがあるのは幸せだし、自分のためにはできないことも子供のためならできる。

素敵な考え方ですよね。
ただ自分のエゴを子供に押し付けるのはやってはいけないなとも思いました。
その線引きが非常に難しいとは思いますが。

人生様々な節目に読みたくなるような作品でした。
私はこれからどのような人と出会うのか、そしてどのような人と別れるのか、見送る立場になるのかと思うと今から非常に楽しみです。

評価

評価は .0/5.0 とさせていただきます。
気になった方は是非読んでみてください!

 

ネタバレありのコメント

(ここからはネタバレを含みますのでご注意ください。)

浜坂君とか史奈とかいつの間にかフェードアウトしてましたね。
もしかしたら終盤にも関与してくるのかなぁだなんて思っていましたが、家族愛を描いた作品なんですね。
中高生時代の友人が大人になっていくにつれて、疎遠になる様が自身にも響いてしまってなんだか悲しくなりましたね(笑)


にしても、梨花さんは自由奔放すぎませんかね??
いやいや、さすがに優子も何か言おうよ・・・って場面多すぎませんかね(笑)
まぁ確かにこういうどこにも留まりたくない人っていますけどなんだかなぁってずっと思っていました。
病気だったようですが、どうにもこのキャラだけには感情移入できませんでした。
分別がつかない小学生の頃ならまだしも、中学生にもなって梨花さんに文句を言わないのはなんだか達観しすぎてるなぁと。

個人的には、実父が何をしていたのかもっと知りたかったですね。
2年後に日本に帰って来て、梨花さんから優子には会わせないようにしていたようですが、どれほど辛かったのか、そしてどうして諦めてしまったのか。
そこには実父ならではの苦悶もあったと思いますが、私には読み解くことができませんでした。

"親ガチャ"という概念

近年で何かと話題になる"親ガチャ"という題材が大いに関係している作品です。
私自身、この言葉があまり好きではないのですが、こう言えるのは恵まれた環境で育ててもらったからこそだと思っています。(あくまでも持論ですが。)
思わず声を上げて助けを求めたくなるような人だっていますよね。
これはもちろん、子が親に対してだけではなく、親が子に対して言いたくなる場合ですよね。

優子は本作品でこのように考えています。

「子どもは親を選べない」何度か聞いたことがある。親を選べないなんて不幸だという意味だろうけど、親を選ばないといけない場に立つのだって、苦しい。

これは両親が離婚するとなった場合にも起こり得ることですよね。
何が正しいかなんて本人には判断できないことが多すぎます。

隣の芝生は青く見えるとよく言いますが、日常にあるどんな小さな幸せでも噛みしめていきたいと思いました。

自分の知らない大きな未来へとバトンを渡す時だ。あの日決めた覚悟が、ここへ連れてきてくれた。

自分がバトンを渡すその時まで。

ジョーカー・ゲーム【書評】

こんにちはしろはです。
今回は『ジョーカー・ゲーム』(柳広司/著)を紹介します。
※本文にはネタバレを含む場合がありますので,ご注意ください。

 

 

あらすじ

”魔王”――結城中佐の発案で、陸軍内に極秘裏に設立されたスパイ養成学校”D機関”。その異能の精鋭達が、緊迫の諜報戦を繰り広げる! 吉川英治文学新人賞日本推理作家協会賞に輝く究極のスパイミステリ。(本書より引用。)

 

人物紹介

結城中佐:極秘のスパイ機関であるD機関を指揮する。かつて優秀なスパイだった。
佐久間中尉:スパイ容疑のかかったジョン・ゴードンの家宅捜索を指揮。
蒲生次郎:英国総領事であるアーネスト・グラハムの所に通い、チェスの相手をする。
井沢和男:英国で写真家を経営。前田弥太郎の跡を継いだ。
本間英司憲兵軍曹:上海に勤務。内通者がいるとの名を受けて捜査にあたる。
飛崎弘之少尉:カール・シュナイダーという人物が二重スパイであると疑惑が上がり、捜査にあたる。

 

感想

earth map

今回は昭和初期を舞台とした5部構成の話です。
スパイ物の話で映画化やアニメ化もしている作品みたいですね。
私は小説が初見の作品となりましたが、読みやすく楽しめました。
表紙絵がカッコよく、なんとなくで読みましたが読んで良かったです。

情報勤務要員養成所と呼ばれる通称"D機関"と呼ばれるスパイ養成学校。
この"D機関"に所属する人物たちが素性を明かすことなく、日常に溶け込みながら任務をこなします。
バチバチとアクションが絡むような感じではなく、密かに暗躍している様が正に"スパイ"を表しているようで非常に格好いいと私は思いました。
一種のミステリー作品のように点と点がつながる感覚は爽快です。

スパイの重要性、緊急性を要す緊張感がバチバチと感じられます。
実際の昭和初期でも、そして現在でもこのようなスパイ機関があるのかなぁなんて私はぼんやりと思いました。

短編集であるため、活字が苦手な方も読みやすいのではないでしょうか。
各章ごとに視点となる人物は異なりますし、共通人物は結城中佐だけなので。
是非片手間に、スパイ機関を楽しんでいただけたらなと思います。

全く関係ない話ですが、本編にはシューベルトの魔王が流れている描写があるのですが、学生の頃に授業で聞いたなぁと懐かしい気持ちになりました。
音楽にはあまり関心のない私でさえも、今でも印象に残っている思い出のある曲です。

最後となりますが、私の一番好きなセリフを紹介します。

何かにとらわれて生きることは容易だ。だが、それは自分の目で世界を見る責任を放棄することだ。自分自身であることを放棄することだ。

いやー、痺れますね。
この結城中佐が全編に登場するのですが、いちいち言動が格好良かったです。

評価

評価は 4.0/5.0 とさせていただきます。
閲覧くださり,ありがとうございました。
気になった方は是非読んでみてください!

ではまたの機会にお会いしましょう!

 

純喫茶トルンカ しあわせの香り【書評】

こんにちはしろはです。
今回は『純喫茶トルンカ しあわせの香り』(八木沢里志/著)を紹介します。
※本文にはネタバレを含む場合がありますので,ご注意ください。

 

 

あらすじ

コーヒーの香りとショパンの調べが、私をあの頃へと戻してゆく。
店の常連千代子にとって、マスターの淹れるコーヒーはささやかな魔法。二十年前、夫との関係に一人悩み、傷ついた気持ちを救ってくれたのがこの店だった。
心地よい苦みと懐かしい旋律が記憶を呼び戻し、不思議な出会いが訪れて……。
下町にひっそり佇む純喫茶トルンカを舞台に三つの温かい交流を描く、感動の第二弾。(本書より引用。)

 

人物紹介

sh1roha468.hatenablog.jp

こちらの記事で紹介しなかった人物のみ改めて紹介します。
千代子:千代子ばあちゃんと慕われるトルンカの常連。
絢子:花屋でアルバイトをしながらイラストレーターの仕事をするトルンカの常連。
沼田:絢子がヒロさんと呼んで慕う。前作では病気を理由に姿をくらます。
浩太:雫の幼馴染。バカなふりをして場を和ませる存在。

 

感想

barista latte

今回は八木沢里志さん著である純喫茶トルンカの2作目です。
前作と同じ舞台と登場人物らでどこかほっこりする話が描かれます。
構想も前回と同じように、3部作の三人称多元描写となっております。

今回は常連客である千代子ばあちゃん、浩太そして絢子の視点で描かれています。
中でも千代子ばあちゃんは、心理描写もですます調である敬体で表現されていることもあり、どこか柔らかく優しい印象を受けます。
千代子ばあちゃんの人柄の良さが伝わり、ほっこりとなれます。

さて、今回のテーマとしては再会というものが大きなある印象を強く受けました。
偉人たちの格言を言う絢子は、自分独自の格言を前作から言っています。

再会とは、人生における一番身近な奇跡である。

絢子が言ったこの言葉が事あるごとに出てきます。
再会ということをテーマにしているだけあって(主観ですが)、懐かしい友人に会いたくなります。
今となっては、連絡が取れなくなってしまった知人と偶然合うことはあるのだろうか、と彼らの生活を見ているとどこか羨望の眼差しで見てみてしまうような気持ちになりました。

自身が感じてしまっている偏見を恥じることなく、愛していきたいですね。
時には一息ついて休むことも大事なことだと再認識できました。
手遅れになってからではいくら後悔しても遅いですからね。

 

評価

評価は 4.0/5.0 とさせていただきます。
閲覧くださり,ありがとうございました。
気になった方は是非読んでみてください!

ではまたの機会にお会いしましょう! 

 

グラスホッパー【書評】

こんにちはしろはです。
今回は『グラスホッパー』(伊坂幸太郎/著)を紹介します。
※本文にはネタバレを含む場合がありますので,ご注意ください。

 

 

あらすじ

復讐を横取りされた。元教師の鈴木は、妻を殺した男が車に轢かれる瞬間を目撃する。
どうやら「押し屋」と呼ばれる殺し屋の仕業らしい。
鈴木は正体を探るため、彼の後を追う。一方、自殺専門の殺し屋・鯨、ナイフ使いの若者・蝉も「押し屋」を追い始める。
それぞれの思惑のもとに――「鈴木」「鯨」「蝉」、三人の思いが交錯するとき、物語は唸りをあげて動き出す。(本書より引用。)

 

人物紹介

鈴木:妻を殺した男に復讐人を抱くが、その男が死亡する瞬間に立ち会うことに。
:自殺専門の殺し屋。あくまでも勝手にその人物が自殺するだけ。
:ナイフ使いの殺し屋。岩西の依頼に従って対象人物を殺すのみ。

 

感想

desk macbook

今回は妻を殺した男に復讐心を抱く元教師、そして違った手法で殺人を行う2人の殺し屋を合わせた3人の視点で描かれる作品です、
実際に読む上では、各視点が切り替わるごとにに対象人物の印鑑が示されているのでわかりやすいと思います。

殺し屋が絡むようなちょっとアングラな世界観でありながらも、人の愚かさや世の理に触れるようなシーンが多々あり、個人的には考えさせられるものがありました。
なるほどなぁ、と思わず本を閉じて考えさせられた描写をいくつか挙げます。

原因を追究したり、打開策を見つけようとしたり、くよくよ悩んだりするのは、絶対、人間特有のものだと思うよ。

感情って人間ならではの美しいものだと思いますが、考えすぎも良くないことですもんね。

世の中の不幸の大半は、誰かが高をくくっていたことが原因なんだってば。

うーん、確かにって思わずうなずいちゃいました。

人間の知恵だとか科学は、人間のためにしか役に立たねえんだよ。分かってんのか?人間がいてくれて良かった、なんて誰も思ってねえよ、人間以外はな。

人間の愚かさが伺えます。結局は人間のエゴでしかないことばかりですからね。

いかがでしょうか?
思わずうなって色々と考えさせられてしまいした。

他にも、殺し屋にも人間らしい心情の表れがあって、この文章表現力は本当に凄いなって。
伊坂幸太郎さんの作品は他にも何冊か読んだことがありますが、どの作品をとっても登場人物の心情表現は圧巻です。
思わず同情したり、応援したりしたくなってしまうのも小説ならではですね。


これは何という小説のジャンルに該当するのだろう?、と考えてしまうようなちょっと不思議な作品ですが、読了後は何も嫌気無くすっきりとした気分にさせてくれます。
心情の描写、場面展開どちらをとっても疾走感のままに読み進めることができました。

最後になりますが、私の一番好きな文章を紹介します。

僕は生きてるみたいに生きるんだ。

いやー、最高です。私自身も死んでいるように生きるのではなく、生きてるみたいに生きたいと思いました。

(余談ですが、今後からブログの構成を工夫していこうと思います。)

評価

評価は 4.5/5.0 とさせていただきます。
閲覧くださり,ありがとうございました。
気になった方は是非読んでみてください!

ではまたの機会にお会いしましょう! 

 

 

青の炎【書評】

こんにちはしろはです。
今回は『青の炎』(貴志祐介/著)を紹介します。
※本文にはネタバレを含む場合がありますので,ご注意ください。

 

 

あらすじ

櫛森秀一は湘南の高校に通う17歳。女手一つで家計を担う母と素直で明るい妹との3人暮らし。その平和な家庭に、母が10年前に別れた男、曾根が現れた。曾根は秀一の家に居座って傍若無人に振る舞い、母の体のみならず妹にまで手を出そうとする。警察も法律も家族の幸せを取り返してはくれないことを知った秀一は決意した。自らの手で曾根を葬り去ることを……。(本書より引用。)

 

人物紹介

櫛森秀一:母親と妹の遥香との三人暮らしをする高校生。
家に転がり込んできた曾根をどうにかして排除しようと企てていた。

遥香:秀一の妹。兄の秀一を心から慕っている。
友子:秀一と遥香の母親。
曾根:10年間に母親と別れた男。突如として秀一の家に入り浸ることになる。
福原紀子:事あるごとに秀一を気に掛ける同級生。

感想

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今回は高校生男子に視点を当てた倒叙のような作品です。
率直な感想としては、切ないながらもなんて美しい家族愛を描いた作品なんだろうと思いました。
決して秀一のしたことは許されるべきことではありませんが、とても考えさせられる一冊でした。

一見すれば、秀一は自転車で通学するどこにでもいるような高校生。
(まぁ、飲酒していることはさておき・・・。)
学校ではでは仲の良い友達との他愛もない学生生活がうかがえます。
事あるごとに突っかかってくる紀子はどんな役割があるのだろう?と推測しながら読んでいました。(結論としては私の見当違いでしたが・・・。)

こんなこと思ってはいけないと思うけれど、完全犯罪を企てている時は心のどこかで秀一のことを応援していました。
それほど曾根という人物の悪人さがこと細やかに表現されていたからですかね。

こちらはネタバレにはなってしまいますが、2件目の殺人は本当にしなければならないのか、何とかして回避はできないのかと思わずにはいられませんでした。
家族を守るためには、もう後戻りはできない切なさがしみじみと感じられました。

結末を知った後でさえ、秀一の行動はどうするべきだったのかわかりませんでした。
決して許されるべきことではありませんでしたが、じゃあ当人だったらどうしていたんだろう?と考えると結論が出せません。
冷静な判断ができる状態ではないことを推察できてしまうような場面展開や心理描写は圧巻です。

家族を守るために犯したことは許されざる行為でありながらも、どこか美しさを感じられる素敵な一冊でした。

こんな方にオススメ

 

  • 倒叙が好きな方。
  • サスペンスやミステリーが好きな方。
  • 家族愛を感じられる作品を読みたい方。

 

評価

評価は 4.5/5.0 とさせていただきます。
閲覧くださり,ありがとうございました。
気になった方は是非読んでみてください!

ではまたの機会にお会いしましょう! 

 

お隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件【書評】

こんにちはしろはです。
今回は『お隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件』(佐伯さん/著)を紹介します。
※本文にはネタバレを含む場合がありますので,ご注意ください。

 

あらすじ

藤宮周の住むマンションの隣には、学校で一番の美少女・椎名真昼が住んでいる。特に関わり合いのなかった二人だが、雨の中ずぶ濡れになった彼女に傘を貸したことから、不思議な交流が始まった。
自堕落な一人暮らしを送る周を見かねて、食事をつくり、部屋を掃除し、なにかと世話を焼く真昼。
家族の繋がりに飢え、次第に心を開いて甘えるようになる真昼と、彼女からの好意に自信を持ちきれない周。素直でないながらも二人は少しずつ距離を縮めていく……(本書より引用。)

 

人物紹介

藤宮周(あまね):高校生でありながら一人暮らしをする身。荒んだ生活を送る。
椎名真昼:学校一の美少女で天子様と称される。周と接点をもつようになる。かわいい。
赤澤樹:周の数少ない友人。周りからはバカップルと言われる大切な彼女がいる。
白河千歳:樹の彼女。樹からは"ちぃ"と呼ばれる。かわいい。

 

感想

今回もいつもの通りタイトルにあるようなライトノベルとなっております。
まぁ、主人公の周が不摂生極まりない生活で元から駄目駄目人間だった説もありますが・・・。
え?真昼が可愛いから良いんじゃないですか??
ぽわぽわとした気分でまるで自分まで駄目人間になってしまったかのよう!!(笑)
こんな生活してたら誰でも駄目人間になりますって・・・。駄目人間育成キット。

作者さんのコメントで両片思いが好きなようですね。
わかる!!わかりますよ先生!!(笑)
1巻目ではまだまだその片鱗は見えにくいですが、巻数が進むにつれてひどいこと(誉め言葉)になってきますよ。
なんでこいつらは付き合わないんだ?え?結婚してないの??とばかりに。

ゆっくりじわじわと2人の関係性が深まっていく感じが最高です。
仲良くなってはい終わり!!でもないですし、仲良くなった後もなんだかじれったい関係性は微笑ましい限りです。
にしても主人公もイケメンだなぁ??もっと自信持ってくれよ。

あと完全に余談ですが、私ももう少し料理を頑張ってみようかなぁと思えた作品でもありましたね。
不摂生極まりない周が健康体に見違えていく様には目を見張りましたね。

現在、こちらの作品は5巻目まで出ておりますので真昼の可愛さに心打たれた人はぜひ(笑)
2人がお互いを思いやる気持ちに触れたら優しい気持ちにもなれるのではないでしょうか。

ではまたの機会にお会いしましょう!