活字紀行

自分自身に満足を。つらつらと書評ブログ。Twitter@sh1roha_468

そして、バトンは渡された【書評】

こんにちはしろはです。
今回は『そして、バトンは渡された』(瀬尾まいこ/著)を紹介します。
※本文にはネタバレを含む場合がありますので,ご注意ください。

 

 

あらすじ

幼い頃に母親を亡くし、父とも海外赴任を機に別れ、継母を選んだ優子。
その後も大人の都合に振り回され、高校生の今は二十歳しか離れていない“父”と暮らす。
血の繋がらない親の間をリレーされながらも、
出逢う家族皆に愛情をいっぱい注がれてきた彼女自身が伴侶を持つとき――。(本書より引用。)

 

人物紹介

森宮優子:家庭環境が7度変わった経験をもつ。しかし本人は全然不幸ではないという。実母は事故で亡くしている。
森宮壮介:現在の優子の父親。高学歴大企業務めだがかなりのくせ者。
水戸秀平:優子の実父。ブラジルへの異動を経て優子と離れ離れになることに。
梨花さん:優子の2番目の母親。同じ場所に留まっていたくない性格。
泉ヶ原茂雄:優子2番目の父親。社長であり、家にはピアノがある。

感想

paper thing 
今回はとても変わった家庭環境で育った一人の女性に焦点を当てた作品です。
高校生にして、7回も家庭環境が変わっているのに不幸だと感じないなんて凄すぎませんかね。
優子はなんてたくましい人なんだと何度思ったことか。
自分が同じ立場にいたら、多少なりとも性格が歪んだり家族仲が悪くなったりすると思いますけどね。

学生生活ではクラス対抗の合唱コンクールがあります。
優子のクラスでは「ひとつの朝」を歌うことになります。
実際に歌詞が出てきて、なんだか当時を思い出して懐かしい気持ちになりました。
他の合唱曲でも、「虹」や「大地讃頌」、「糸」が出てきます。
どこか懐かしい方もいらっしゃるのではないでしょうか。

読了後には、思わずYouTube色々な合唱曲を聞いて感傷に浸っていました。
当時の私は、尊敬する先輩のクラスが「手紙」を歌っていて非常に感動したのを覚えています。
何年も経った今聞いてもなんだか鳥肌が立ってしまいました。

さて、優子は森宮さんが朝ごはんからかつ丼だの、連日で餃子三昧にしても文句言わないんですか。
森宮さん、性格濃いなぁ。でも優子のことをよく考えているのは良く伝わってきました。
これがまたいいセリフを言うんですよ。
2つ紹介します。

自分の明日と、自分よりたくさんの可能性と未来を含んだ明日がやってくるんだって。親になるって、未来が二倍以上になるってことだよって。明日が二つにできるなんて、すごいと思わない?

確かにすごいって思うわ、親になったことのない私は思わず唸ってしまいました。

自分より大事なものがあるのは幸せだし、自分のためにはできないことも子供のためならできる。

素敵な考え方ですよね。
ただ自分のエゴを子供に押し付けるのはやってはいけないなとも思いました。
その線引きが非常に難しいとは思いますが。

人生様々な節目に読みたくなるような作品でした。
私はこれからどのような人と出会うのか、そしてどのような人と別れるのか、見送る立場になるのかと思うと今から非常に楽しみです。

評価

評価は .0/5.0 とさせていただきます。
気になった方は是非読んでみてください!

 

ネタバレありのコメント

(ここからはネタバレを含みますのでご注意ください。)

浜坂君とか史奈とかいつの間にかフェードアウトしてましたね。
もしかしたら終盤にも関与してくるのかなぁだなんて思っていましたが、家族愛を描いた作品なんですね。
中高生時代の友人が大人になっていくにつれて、疎遠になる様が自身にも響いてしまってなんだか悲しくなりましたね(笑)


にしても、梨花さんは自由奔放すぎませんかね??
いやいや、さすがに優子も何か言おうよ・・・って場面多すぎませんかね(笑)
まぁ確かにこういうどこにも留まりたくない人っていますけどなんだかなぁってずっと思っていました。
病気だったようですが、どうにもこのキャラだけには感情移入できませんでした。
分別がつかない小学生の頃ならまだしも、中学生にもなって梨花さんに文句を言わないのはなんだか達観しすぎてるなぁと。

個人的には、実父が何をしていたのかもっと知りたかったですね。
2年後に日本に帰って来て、梨花さんから優子には会わせないようにしていたようですが、どれほど辛かったのか、そしてどうして諦めてしまったのか。
そこには実父ならではの苦悶もあったと思いますが、私には読み解くことができませんでした。

"親ガチャ"という概念

近年で何かと話題になる"親ガチャ"という題材が大いに関係している作品です。
私自身、この言葉があまり好きではないのですが、こう言えるのは恵まれた環境で育ててもらったからこそだと思っています。(あくまでも持論ですが。)
思わず声を上げて助けを求めたくなるような人だっていますよね。
これはもちろん、子が親に対してだけではなく、親が子に対して言いたくなる場合ですよね。

優子は本作品でこのように考えています。

「子どもは親を選べない」何度か聞いたことがある。親を選べないなんて不幸だという意味だろうけど、親を選ばないといけない場に立つのだって、苦しい。

これは両親が離婚するとなった場合にも起こり得ることですよね。
何が正しいかなんて本人には判断できないことが多すぎます。

隣の芝生は青く見えるとよく言いますが、日常にあるどんな小さな幸せでも噛みしめていきたいと思いました。

自分の知らない大きな未来へとバトンを渡す時だ。あの日決めた覚悟が、ここへ連れてきてくれた。

自分がバトンを渡すその時まで。