活字紀行

自分自身に満足を。つらつらと書評ブログ。Twitter@sh1roha_468

アリアドネの声【書評】

こんにちはしろはです。
今回は『アリアドネの声』(井上真偽/著)を紹介します。
※本文にはネタバレを含む場合がありますので、ご注意ください。

 

 

 

あらすじ

 

救えるはずの事故で兄を亡くした青年・ハルオは、贖罪の気持ちから救助災害ドローンを製作するベンチャー企業に就職する。業務の一環で訪れた、障がい者支援都市「WANOKUNI」で、巨大地震に遭遇。ほとんどの人間が避難する中、一人の女性が地下の危険地帯に取り残されてしまう。それは「見えない、聞こえない、話せない」という三つの障がいを抱え、街のアイドル(象徴)して活動する中川博美だった――。
崩落と浸水で救助隊の侵入は不可能。およそ6時間後には安全地帯への経路も断たれてしまう。ハルオは一台のドローンを使って、目も耳も利かない中川をシェルターへ誘導するという前代未聞のミッションに挑む。
(本書より引用。)

 

人物紹介


高木春生:ドローンビジネスを手掛ける株式会社タラリアに勤務。スクール事業部所属。
花村佳代子:ハルオの新人教育の担当。スクール事業部所属。
我聞庸一:ハルオより二期上の先輩。開発部所属。
韮沢粟緒:ハルオの高校の同級生。事故に遭って陸上競技者としての選手生命が絶たれた。
韮沢碧:粟緒の妹。失声症
中川博美:見えない、聞こえない、話せないの三重苦をもつ、令和のヘレン・ケラー

感想

drone camera

今回はドローンを用いた災害救助活動を描いた作品です。
さほど遠くない将来にはこのようなことも可能になるのだろうなと思うと、ワクワクしてしまいます。

しかし、その救助活動を行う相手が見えない、聞こえない、話せないの三重苦を抱える人物だったことから、事態は困難なものへとなっていきます。

ハルオはドローンを操縦してその女性を地下空間から救う役を務めることとなる。

手に汗を握るような切羽詰まった救出劇。
それだけで終わることなく、ミステリ要素が含まれていることが本作品の大きな魅力だと思います。

三重苦を抱えた女性を水没というタイムリミットまでに救うことができるのか。
ドローンを扱うハルオ、そして彼をサポートする周りをどこか応援しながら楽しんでもらえればなと思います。

私は手に汗を握りつつも最後まで非常に楽しむことができました。
読んで良かった一冊です。

ネタバレありのコメント

これからはネタバレありのコメントをつらつらと書きますので、見たくないという方はここまでとしてください。
これまで見てくださり、ありがとうございました!

 

全体を読み終えての感想(ただの独り言)

もしかしたら彼女に障害はないのではないか?
そんな疑惑が中盤で出てきましたが、その情報に翻弄されてしまいました。

三重苦を抱えているには、あまりにも行動が完璧すぎる、できすぎている。
救助指示をしながら、ハルオたちがそんな疑念を抱いてしまうのは思わず納得してしまいました。

そんなことがあったからこそ、最後の真相には思わず感動してしまいました。
無理なことなんてないかもしれない、そんな力強さを感じました。
勇気を与えてもらえた気がします。

ハルオが奮闘する様も非常に良かったですね。

無理なことは考えなくていい。考えるべきは、今の自分に何ができるか、だ。
(本書より引用。)


作中ではこの"無理"という言葉が何度も出てきましたが、本当に使い方の難しい言葉だなと思いました。

自分の中で"無理"を決めることは簡単だが、相手に"無理"を押し付けるのは時に残酷なこととなる。
何でもできるよ!無理なことなんてない!!だなんて口で言うのは簡単ですが、その線引きは自分にしかできないことがほとんどですもんね。

人に助言を求められた際には気安くこの言葉を使ってしまうこともありますが、少々考え直さないとなと思いました。

何を伝えたかったのか(これもただの独り言)

作中では少し未来で普及するであろうドローンだけでなく、体に難を抱えた人物が何人か登場します。

そしてその"身体障碍者"に関して、冒頭でこのような説明があります。

<盲ろう>者は全国で二万人以上いらっしゃるそうです。ちなみに視覚障碍者を含め、体のどこかしらに障害を持つ<身体障がい者>の方は、全国で四百万人以上―え?と思いますよね。日本の人口が一億二千万人くらいなので、実にその三パーセント以上が、何かしら体に難を抱える計算です。
(本書より引用。)


3%って相当な割合ですよね。
普段生活している中でそれほど感じない当たり、無意識のうちに見えないものとして蓋をしてしまっているのでしょうか。

もしくは、パッと見ただけでは判断できず、当人としては苦労しているのでしょうか。
そう思うと、現実って残酷だなって思ってしまいます。
私も無関係だと思ってしまっているんでしょうね。

最近だとヘルプマークを見かけることが珍しくなくなってきたので、多少なりとも優しくありたいと思いました。

さて、先ほども言いましたが本作品では"無理"という言葉が何度も出てきます。
序盤と終盤で出てきた文を紹介します。

「彼女みたいに、頑張りすぎる人がいると。ああいう人がいると、あれが基準になっちゃうじゃない。(中略)「無理なことは。無理なんだよ」
(本書より引用。)

 

成功のコツは、誰かと比べたりしないこと。あくまでも比べるのは、昨日の自分。<無理>から<できそう>に、<できそう>から<できる>に―
(本書より引用。)


あくまでも物事の限界を決めてしまうのは自分ですね。
そして、その感覚を人に押し付けてしまうことは、時に愚かなことだなと。

相手を思いやった助言は時に刃となり得るし、自分で自分の可能性を潰してしまうことも。

SNSが発展した昨今だからこそ、思わず人と比べてしまうこともありますよね。

自分の中の芯は決してブレることなく、貫いていこうと思えました。
人と比べたってしょうがないですもんね。

そして、時には気楽に生きたいと思いました(笑)

今回はこの辺で。
閲覧くださり、ありがとうございました。
またの機会にお会いしましょう。