活字紀行

自分自身に満足を。つらつらと書評ブログ。Twitter@sh1roha_468

凍りのくじら【書評】

こんにちはしろはです。
今回は『凍りのくじら』(辻村深月/著)を紹介します。
※本文にはネタバレを含む場合がありますので、ご注意ください。

 

 

 

あらすじ

 

藤子・F・不二雄をこよなく愛する、有名カメラマンの父・芦沢光が失踪してから五年。残された病気の母と二人、毀れそうな家族をたったひとりで支えてきた高校生・理帆子の前に、思い掛けず現れた一人の青年・別所あきら。彼の優しさが孤独だった理帆子の心を少しずつ癒していくが、昔の恋人の存在によって事態は思わぬ方向へ進んでしまう…。家族と大切な人との繋がりを鋭い感性で描く“少し不思議”な物語。
(「BOOK」データベースより引用。)

 

人物紹介


芦沢理帆子:高校二年生。実はドラえもんが好きだが、自分を偽りながら生きている。
芦沢汐子:理帆子の母。長いこと病院に入院している。
芦沢光:理帆子の父。理帆子が小学六年生の頃に失踪した。
別所あきら:新聞部の三年生。理帆子に写真のモデルを頼んだ。
松永純也:世界的に有名な指揮者。理帆子の父には言葉で言い表せないほどの恩がある。
若尾大紀:理帆子の元彼氏。司法浪人生。

感想

smartphone camera

今回は一人の女子高校生の日々をつづった一冊です。
さっそくですが、本書にはドラえもんひみつ道具が登場します。

主人公である理帆子は、父親の仕事の影響から両親と別居しながら高校に通っています。
しかし、実際には父親は失踪して行方知らず、母親は病院に入院しているのが真相。
本当はドラえもんが好きで友人のことも遠目で見ているが、自分を偽りながら生きている理帆子。

そんな中、理帆子の写真を撮りたいという別所あきらと出会う。
別所あきらと出会ったことで、理帆子の中には本心からの癒しを感じられるようになります。

不器用な自分のことを変えたいと思いながらも、なかなか一歩が踏み出せない理帆子。
彼女は本心をさらけ出せるようになるのか、彼女の成長を見守ってもらえればなと思います。

なんだか、親のような視点で読んでしまいました・・・(笑)
私も年を取ったということなんですかね。

ネタバレありのコメント

これからはネタバレありのコメントをつらつらと書きますので、見たくないという方はここまでとしてください。
これまで見てくださり、ありがとうございました!

 

全体を読み終えての感想(ただの独り言)

ひみつ道具ってこんな綺麗に小説に組み込めるものなんですね。
知っている道具も知らない道具もありましたが、なんだか懐かしい気持ちにもなれました。
ドラえもんの漫画はあまり読む機会がありませんでしたが、テレビや映画はよく見ていたので、当時の記憶が目に浮かぶようでした。

理帆子の父親はなぜ失踪してしまったのか。
その点が最も気になりながら読んでいました。

作中ではこんな描写がありました。

 

三十六というのは、そういう年齢なんだって。自分の道の意義を見つけ、全ての準備を終えて走り出す年。三十六になった時、それができていないようなら僕の人生はおしまいだ。そう、考えたって。
(本書より引用。)


理帆子の父親が失踪した後のセリフですね。
なんだか、このセリフって重いなって。
私自身、まだ三十六にはなっていない年ですが、私はその頃に胸を張れるような大人になっているのでしょうか。

結局、なんとも言えない形に落ち着いてしまっているんだろうなぁと思いましたが、個人的にとても刺さった表現でした。

若尾や理帆子の父親、そして理帆子。
自分のエゴを押し付けるのは簡単ですが、押し付けられた側には気苦労を背負わせることにもなる。
誰もが人間臭さを感じられる一冊でした。

本当に人間て不器用で面倒なものだと思いました。
少し優しくなれた気がします。

何を伝えたかったのか(これもただの独り言)

若尾の最期のシーンは衝撃的でしたし、別所の正体が判明したシーンは痺れました。
ここだけで読む価値があったなと思いました。

ここで一つ引用したいと思います。

現状が不満なのに、その原因を自分の内側に求めることができず、他に求める。そして子どもを殺したりする。自分より強そうなもののところには攻撃が向かず、正攻法で向き合うこともしないのに、ただ攫ったり、殺したり。それって、どういう仕組みなのかな。気が滅入る。
(本書より引用。)


別れてからの若尾と話して、理帆子が感じたことを表したところですね。
この攻撃的な表現が後々出てくるとは思いませんでしたが・・・。

最初にある、原因を他に求める、という点は少々耳が痛かったです。
私も日常生活の中で思わず愚痴や文句を漏らしてしまうこともあり、実は私が悪いのかも?いや、向こうが悪いなと思っているあたり、自分も同じ穴なんだなと。

人間関係って難しいな。

また、最後にはこんな表現もありました。

そこで抱える悩みなんて、所詮どれもたいしたことないのに、みんな必死で、馬鹿みたいだって、見下してた……」
人を馬鹿にして、真剣にそれと対峙しない。私の気質は、自分と似ていた若尾に惹かれていた。
(本書より引用。)


理帆子が心の内を告白するシーンですね。
私的にはここが一番ジーンときました。

悩みごとの深刻さなんて、当人にしかわからないですよね。
何をそんなことで大げさな・・・。と批判するのは簡単ですが、本人は心から苦しんでいるかもしれませんよ?

昨今のSNS事情にも言えることなんだろうなぁと思いました。
自分を着飾ったってしょうがないですね。

今回はこの辺で。
閲覧くださり、ありがとうございました。
またの機会にお会いしましょう。