活字紀行

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悪いものが、来ませんように【書評】

こんにちはしろはです。
今回は『悪いものが、来ませんように』(芦沢央/著)を紹介します。
※本文にはネタバレを含む場合がありますので、ご注意ください。

 

 

 

あらすじ

 

助産院に勤める紗英は、不妊と夫の浮気に悩んでいた。彼女の唯一の拠り所は、子供の頃から最も近しい存在の奈津子だった。そして育児中の奈津子も、母や夫、社会となじめず、紗英を心の支えにしていた。そんな2人の関係が恐ろしい事件を呼ぶ。紗英の夫が他殺死体として発見されたのだ。「犯人」は逮捕されるが、それをきっかけに2人の運命は大きく変わっていく。
(「BOOK」データベースより引用。)

 

人物紹介

 

奈津子:マイらいふプロジェクトというボランティアに参加している。
紗英:夫の浮気と不妊に悩む。奈津子のことをなっちゃんと慕う。

鞠絵:紗英の妹。助産師として働いている。
大志:紗英の夫。
貴雄:奈津子の夫。

 

感想

今回はとある仕掛けがされたサスペンス作品です。
賛否両論あるようですが、私はこの本すげーなってとても思いましたね。
そのくらい読んで良かったと思える一冊でした。

再度言うととある仕掛けがされているのですが、私はなんとなくそうなんじゃないかなぁと思いながら読んでいました。
序盤では微塵も思いませんでしたけどね?とんでもない勘違いをしてましたけどね?

奈津子と紗英、二人の視点でのみ物語が進められていくことになりますが、節目には関係者の証言も書かれており、事件や二人の人間性が徐々に明るみとなります。

この事件の真相は?彼女ら二人はどうしてこのようなことを?
色々なことを推理しながら読んでもらえればなと思います。

再三となりますが、読んで良かった作品でした。

ネタバレありのコメント

これからはネタバレありのコメントをつらつらと書きますので、見たくないという方はここまでとしてください。
これまで見てくださり、ありがとうございました!

 

全体を読み終えての感想(ただの独り言)

いやー、本当に読んで良かった。
お恥ずかしながら、私は序盤から奈津子と紗英は姉妹なんだと思っていました。
鞠絵の名前が出てきた段階で、紗絵の妹が鞠絵であると表記されており、奈津子との関係性は明言されていなかったのになぜでしょうかね?

中盤あたりで、奈津子には幼い頃に父親を亡くしてきょうだいはいないと書かれていたり、紗絵と鞠絵は二人姉妹であると書かれたりしていて、自分が勘違いしていることにようやく気付きました。
そして、じゃあ奈津子って誰なんだ??となりましたね。

そこから、あー紗絵の母親なんかー、え?梨里って誰?と順繰りに謎が解けていきました。

私が好きなのは、本作品全体が心理カウンセラー熊谷聡子による一冊の書籍であると判明する部分です。

これが出てきた瞬間に、これは天才だわと思わずうなりました。
私自身、こういった心理学のような書籍に触れることもあるせいか、衝撃度も大きかったです。

プロットの段階でこういう構成にしようと決まっていたのだと思いますが、本当に天才だなと思いました。
それほどまでに、全体の構成(第一章から第六章)がガチッとハマっているわとなりました。

三者のインタビューが書かれており、徐々に事件の全貌がわかるだけでなく、書籍の一部であると判明する部分には感服です。

私個人的に本当に読んで良かった一冊です。
いやー、こういうちょっとメタっぽい展開も好物なんですよね。

何を伝えたかったのか(これもただの独り言)

さて、では今回は何を伝えたかったのでしょうか。
結局はイヤミスのような結末となり、一時の過ちから大志が死亡し奈津子が逮捕されることとなりました。

大きなテーマには、やはり母親、家族が挙げられるでしょう。
母親として、奈津子の母親のインタビューも載せられていました。

あんたたちが話聞いて回ってる相手ってのはみんな同罪ですよ。(中略)証言できるってことはね、それだけ関係があったってことでしょうよ。(中略)いざ責任はってなると全部親にあるってのはね、虫がいい話ですよ。
(本書より引用。)


正直、この母親のインタビューがすべてではないでしょうか。
犯罪者となったらその矛先は本人や家族に向かうことになる。
ただ、本人はまだしも家族はたまたま一緒にいた時間が長かっただけ。
そう考えると冷酷な気もしますが、結局は本人にしかわからない感情なんていくらでもありますよね。

もちろん、犯罪は悪だと思っています。
その矛先が家族や、ましてや被害者に向かうこともある現実はどうかなと思うものもあります。

ひとえに批判するのは簡単ですが、冷静に物事を捉えられるように私はなりたいと思いました。

母親というテーマに関してはこのような表現もありました。

「母」になりきれない母親と、母親から卒業できない「娘」―一卵性母娘とは、非常に現代的なテーマである。
(本書より引用。)


学問としてとらえてしまえばいささか冷たい表現となってしまいますが、では一体何が正しいんでしょうかね。
そもそも正しいなんてあるんですかね。

小説だけでなく、現実社会でも人付き合いのあり方について考えたいです。
どうせ私は気ままに生きますけどね。

今回はこの辺で。
閲覧くださり、ありがとうございました。
またの機会にお会いしましょう。