活字紀行

自分自身に満足を。つらつらと書評ブログ。Twitter@sh1roha_468

夜行秘密【書評】

こんにちはしろはです。
今回は『夜行秘密』(カツセマサヒコ/著)を紹介します。
※本文にはネタバレを含む場合がありますので、ご注意ください。

 

 

 

あらすじ

 

映像作家のトップランナーとして孤高に生きる宮部あきら。ファンの域を超えて宮部に執着する富永早苗。SNSから突如ブレイクしたバンド・ブルーガール。脚本家を夢見て小さな劇団に所属する岩崎凛。居場所を失った高校生・松田英治。秘密を抱えながら暮らすナツメとメイ。それぞれが迷い、悩み、嫉妬し、決断をしては、傷つけ合う。恋の輝きと世界に隠された理不尽を描いた、鮮烈なラブストーリー。
(公式HPより引用。)

 

人物紹介

 

宮部あきら:孤高の映像作家として名をはせる。
富永早苗:宮部あきらのファン。偶然、バーで宮部あきらを見かける。
岡本音色:バンドであるブルーガールのボーカルを務める。
岩崎凛:脚本家を夢見て小さな劇団に所属。スーパーでアルバイトをしている。
松田英:家で居場所のない高校生。駅のホームで凛と出会う。

 

感想

今回は恋愛を題材にした作品です。
ただどこか綺麗なものではなく、いずれも後悔を孕んだような内容となっています。

読了後にWebサイトを閲覧するまで知りませんでしたが、音楽とコラボした小説だったんですね。
全く知らずに読み進めていましたが、セールス文句通りな激情の恋愛譚でした。
興味のある方はこちらもご覧ください。

カツセマサヒコ|小説『夜行秘密』 | 双葉社 (futabasha.co.jp)


結構大々的に宣伝していたようで、前作に惹かれかつ表紙絵につられただけの私はどれほど浅かったのか・・・。

登場人物が多いことからもわかるように、本作品は多くの人物視点によって物語が展開されていきます。
一見すると関連がないのでは?といった人物たちが徐々に紐づけられていきます。

ただ、いずれの人物も迷っては決断し、そして何らかの後悔を抱いている。
そういった心理描写がいかにも人間らしく、読んでいる私自身が彼らの生活に関与しているのでは?と錯覚してしまいました。
まぁこれは私個人の感受性が豊かすぎるせいかもしれませんが・・・(笑)

前作である明け方の若者たちと同じくらい好きな作品でした。
いずれの作品も後悔の描写が色濃く表現されており、私自身もこういうことあるかもなぁと投影してしまうほど。
ご興味があればこちらもぜひ。

sh1roha468.hatenablog.jp

 

良い意味とも悪い意味とも取れるかもしれませんが、まさに今風な作品でした。
読んで良かったです。

ネタバレありのコメント

これからはネタバレありのコメントをつらつらと書きますので、見たくないという方はここまでとしてください。
これまで見てくださり、ありがとうございました!

 

物語の結末

なんとまぁ切ない一冊だったなぁと。
良い作品だった!と簡単には片付けられない一冊でした。

恋愛、後悔がテーマとなっていますが、いずれも一種の執着心が原因となっているケースが多かった印象があります。
最後に宮部あきらを英治が凛の脚本になぞらえて殺す展開には驚かされましたが、それほどまでに英治は凛に救われていたんですね。

音色は凛のことを後悔していましたが、時間とともに凛のいない生活に順応していく。
ここが英治との対比になっており、リアリティを感じました。

私の好きな表現を一つ紹介しようと思います。

一面だけに光を当てても実態は見えないし、全てを照らせるほどの光量はどこにも存在しない。そして、影の部分にこそ居心地の良さを感じていたり、影のままでありたいと願う要素も人は大抵持ち歩いている。
(本書より引用。)

これは宮部あきらのマネージャーであるナツメの視点です。
彼女の視点はなぜあるんだろう?と思いながら読んでいましたが、このセリフが非常に良かったです。

何かとオープンにしよう!多様性を重んじよう!と言われがちな昨今に対して唱えているのかなと思いました。
他人には言えないことなんて何かしらは持ち合わせていますよね。

彼女視点の恋愛要素は少々少なめでしたが、彼女自身も後悔を抱いている。
そして、どうにもならないんだなという諦めも現れている。
彼女の視点は後半まで全く出てきませんでしたが、私としては非常に印象的でした。

 

全体を読み終えての独り言

つらつらと述べたいのでこんな項目を作ってみました。

個人的に宮部あきらの失墜には驚かされるものがありました。
パワハラ・セクハラまがいのことはしているが、自身が担当した脚本に触れる消費者たちはその事実に気付くことはない。
ただ、昨今でよく言われる炎上を一度してしまえば誰からも石を投げつけられるような事態にもなる。
このあたりがいかにも現代社会を体現しているようで、なんだか悲しくなりました。

私自身、そういった炎上まがいのことをした人たちを無暗に非難しないようには心がけていますが、本作品の宮部あきらのような一つの作品を手掛けるような人物が一度炎上してしまえば、制作物は多少なりともある種の色眼鏡で見てしまいますよね。

当然、宮部あきらのような悪(パワハラ・セクハラ)は許されることではないと思いますが、実害を被った人以外までもが一方的に非難するのはどうなんだって思いますね。
何と言っても作品に罪はないですからね。
私はこの作品に罪はないという言葉が非常に好きです。

作中でもこのような表現がありました。

「良い作品を作る人は、極めて模範的な人格者で、品行方正でなければならない」という風潮もまた、馬鹿馬鹿しいと感じていました。
(本書より引用。)

いやー、これ本当に良い表現だと思いませんか。
結局は自分が一番かわいいんだなってつくづく思いますね。
何が正しいのかなんて誰にもわかりませんし、そもそも正解なんてざらでしょうし。

最終的に当事者と部外者では視点が違いますからね。
あーあ、本当に人間ってめんどくせーな(笑)

今回はこの辺で。
閲覧くださり、ありがとうございました。
またの機会にお会いしましょう。