活字紀行

自分自身に満足を。つらつらと書評ブログ。Twitter@sh1roha_468

エミリの小さな包丁【書評】

こんにちはしろはです。
今回は『エミリの小さな包丁』(森沢明夫/著)を紹介します。
※本文にはネタバレを含む場合がありますので、ご注意ください。

 

 

 

あらすじ

 

恋人に振られ、職業もお金も居場所もすべてを失ったエミリに救いの手をさしのべてくれたのは、10年以上連絡を取っていなかった母方の祖父だった。人間の限りない温かさと心の再生を描いた、癒しの物語。
(本書より引用。)

 

人物紹介

 

エミリ:訳あって仕事を辞めた。15年ぶりに会う祖父と同居することになる。
大三:龍浦に住むエミリの祖父。風鈴職人。
鉄平:エッセイを書いて本を出している。釣りは下手くそ。
フミ:いつも野菜をくれるおばあさん。不愛想。
心平:龍浦の漁師。大三の飼い犬であるコロには必ず吠えられる。
直斗:サーファー。風鈴のネット販売を請け負う。カフェのオーナー
京香:心平や直斗とは幼馴染。エミリから見て眩しい人。

 

感想

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今回は龍浦という小さな町を舞台にした作品です。
冒頭はリュックに出刃包丁を忍ばせた描写から始まったので何事!?と思いましたが、今回も森沢さんならではのほっこりとする話で最高でした。

全六章となっているのですが、港町ならではの魚料理が多数出てきます。
私は大の魚好きですので、どれもが美味しそうで思わず作ってみたくなるほどでした。

大三さん、無口だけどいい人すぎませんかね?
そもそも龍浦に住む方々が良い人しかいないんですよね。

おじいちゃんは無口ながらも、ドンと構える懐の深さを感じます。
言葉ではなく態度で示してくれる様は本当に温かい。

実際に、海の近くのちょっとした町で暮らしたら、こんな生活ができるのかななんて考えることも。
こんな生活に憧れていますが、読むだけで想像させてくれるのはワクワクします。

森沢さんの作品は、どれも人の温かさのようなものを感じさせてくれ、読了後はどこか人に優しくなった気がします。

ぜひ海のある田舎町に憧れている方や、人付き合いに疲れてしまった方は読んでみてはいかがでしょうか。

ネタバレありのコメント

これからはネタバレありのコメントをつらつらと書きますので、見たくないという方はここまでとしてください。
これまで見てくださり、ありがとうございました!

 

自分らしくあるためには

幸せになることより、満足することの方が大事だよ。

人は、いい気分でいられるなら、どこにいたっていいんだ。


どちらもとても良い表現ではないでしょうか。
大三さんから言われた言葉ですが、どちらも私の心に突き刺さってきました。

エミリはどうして、沙耶という性格の悪い嫌味気質な同僚とつるんでいるのだろうと思っていましたが、中盤あたりでその呪縛から解放された本当に良かったです。

エミリは正に、どこにでもないどこかへ切に行きたがっているような気持ちが伝わり、
もっと気楽になればいいのにと完全に第三者視点で眺めていました。

エミリは大三さん、海のおじいちゃんとまた会えたことで逃げるのではなく、攻められるようになった。
龍浦での生活を経て、お母さんとも向き合うことができそうでホッとしました。

冒頭の描写は、お母さんの元へ向かうシーンだったのですね。
お母さんも空回りながらも、エミリのことを思っていたのは確かなので、二人が少しでも居心地の良い関係性になれますように。

風鈴の作り方・ポイント

今まで全く知らなかったので、記念にメモしようと思います。

①純銅を金鋸やグラインダーといった機械でカット。
②金槌で叩いて風鈴の形に整える。

・坊主タガネ
すりこぎのような形状をした金属の台座に銅の板をのせて、先端を丸くカーブさせるように叩く。

・燻し
家庭用カセットガスコンロの上に金網を置き、その上で乾いた竹の細片を燃やし、煙が出てきたら風鈴を燻す。

・焼き入れ
銅をコンロとトーチで真っ赤になるまで焼いたあと、ジュッと一気に水につける。

これから暑くなってくると、どこからともなく風鈴の音色が聞こえてくるのではないでしょうか。

作中では桔梗の花をモチーフにして形どっているようですが、これからは目についた風鈴は音だけでなく形にも注目したいですね。

エミリが龍浦で過ごした素敵なひと時と共に。

"浦"という文字の意味

古来、日本に伝わってきた浦は、心を意味する言葉なんだよ。


正直、全く知りませんでした。
あとの説明にはこのようなことも述べられていました。

日本人は、人間についても外見を「表」とし、内面(つまり心)を「うら」とした。その証拠に現代の日本語にも「うら」がつく単語が数多く残されていて、それぞれの「うら」を「心」に置き換えても意味が通じるのだという。

 

言葉って本当に美しいなと改めて思いました。

「うらやましい」は「心がやましい」状態を示し、
「恨めしい」は「心が女々しい」こと、
「裏切る」は相手と繋がっていた「心を切る」こと、
「裏読み」は本当の「心を読む」こと。

言葉の奥深さを知ってゾクゾクする日が来るとは思ってもいませんでした。
他にも知っていきたいですね。

今回はこの辺で。
閲覧くださり、ありがとうございました。
またの機会にお会いしましょう。