活字紀行

自分自身に満足を。つらつらと書評ブログ。Twitter@sh1roha_468

サイレント・ブレス【書評】

こんにちはしろはです。
今回は『サイレント・ブレス 看取りのカルテ』(南杏子/著)を紹介します。
※本文にはネタバレを含む場合がありますので、ご注意ください。

 

 

 

あらすじ

 

大学病院の総合診療科から、「むさし訪問クリニック」への“左遷"を命じられた37歳の水戸倫子。そこは、在宅で「最期」を迎える患者専門の訪問診療クリニックだった。命を助けるために医師になった倫子は、そこで様々な患者と出会い、治らない、死を待つだけの患者と向き合うことの無力感に苛まれる。けれども、いくつもの死と、その死に秘められた切なすぎる“謎"を通して、人生の最期の日々を穏やかに送れるよう手助けすることも、大切な医療ではないかと気づいていく。そして、脳梗塞の後遺症で、もう意志の疎通がはかれない父の最期について考え、苦しみ、逡巡しながらも、大きな決断を下す。その「時」を、倫子と母親は、どう迎えるのか?

(本書より引用。)

 

人物紹介

 

水戸倫子:大学病院の総合診療科から訪問医療に左遷となった医師。
そこでは終末期医療を担当することとなる。
大河内仁:倫子に異動を告げた教授。自身も訪問クリニックにはたまに顔を出す。
武田康:"むさし訪問クリニック"の看護師。茶髪とピアスで一見するとチャラい印象。
亀井純子:"むさし訪問クリニック"の医療事務。亀ちゃんと呼ばれる。
ケイちゃん:"ケイズ・キッチン"の店主。ニューハーフ。

感想

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今回は終末期医療をテーマにした一冊です。
まずは、タイトル名の意味が巻頭に説明されていましたので、ここで引用します。

サイレント・ブレスとは

静けさに満ちた日常の中で、穏やかな終末期を迎えることをイメージする言葉です。(中略)人生の最終章を大切にするための医療は、ひとりひとりのサイレント・ブレスを守るための医療だと思うのです。
(本書より引用。)


このように著者の南杏子さんは説明しています。
自身も現役のお医者さんということも相まって、医療現場ならではの緊張感や大変さが伝わってくる作品でした。

 

終末期医療というテーマ

医療というと、何とかして患者を助けようとするケースがほとんどだと思います。
ただ、事実としてどんな人間であろうとも最終的には亡くなります。

患者自身がどのような人生の終え方をしたいのか、備えるためにも終末期医療について本人だけでなく親族の方も考える必要があるのではないか。

本作品では、5人の患者さんの話が描かれます。
例外なく彼ら彼女らは死を待つだけといっても過言ではないような状況にある人ばかり。

本人の意思とは関係なく、ただ生きてほしいからという理由だけで親族が延命処置を望むのは正しい事なのだろうかと考えさせられました。

ぜひ一読して親族は自身の終末期をどう終えたいのか、そして自身もどうしたいのか、考える際のきっかけになれば幸いです。

 

ネタバレありのコメント

これからはネタバレありのコメントをつらつらと書きますので、見たくないという方はここまでとしてください。
これまで見てくださり、ありがとうございました!


結末

結末には倫子の父親の最期を看取って終わるのだろうなと思いながら読み進めていましたが、想定していた結末となりました。

終末期医療について、倫子も何が正しいのか苦悩する場面もあります。
そんな中、大河内教授からこんな言葉が告げられます。

死ぬ人をね、愛してあげようよ。治すことしかできない医師は、治らないと知った瞬間、その患者に関心を失う。(中略)患者にとっても家族にとっても、本当に不幸なことだよね。
(本書より引用。)


これとても良いセリフだなぁと少しジンときました。
当然、医師が形式的なやり取りとなってしまうのはしょうがないことだと思います。

元気でいてほしいから、という個人的な考え方を強要せずに、本人の意思を尊重できる人物になりたいと思えました。
治療の苦しみを代わってあげることも、理解することもできませんからね。

コースケ

コースケこと、武田康介のキャラ付けが本当に素晴らしいなと思いました。

終末期医療というと暗くなりがちだと思いますが、そういったことをあまり感じさせない。
実際の終末期医療でも、コースケのような看護師がそばにいると安心する気がする。


当然、倫子やほかの人物も良いキャラだと思いますが、コースケなくしてこの作品はなかったと個人的には思います。

彼のおかげで、最後まで暗く落ち込まずに読むことができました。

 

エンディングノートとは

聞き覚えのない言葉だったので、最後に書きたいと思います。
本書では以下のように説明されていました。

人生の終末期に自らの希望を書き留める「エンディング・ノート」は、二〇一〇年代から急速に普及したものだ。それ以前は、延命治療などに関する意思を明確な形で遺すため、行政書士や弁護士に依頼して公正証書を作成する人も少なくなかった。
(本書より引用。)

 

こういうものがあるとは全く知りませんでした。
公益社からもこのように紹介されておりますので、興味のある方はこちらも参照ください。

終活の基礎知識!エンディングノートとはどんなノート?|葬儀の知識|葬儀・お葬式なら【公益社】 (koekisha.co.jp)
(公益社HPより引用。)


エンディングノート亡くなった時のための準備ではなく、これからの人生をよりよくするためのツールだそうです。

頭の片隅に置いておいて、有事の際には選択肢の一つとして検討したいですね。

今回はこの辺で。
閲覧くださり、ありがとうございました。
またの機会にお会いしましょう。