活字紀行

自分自身に満足を。つらつらと書評ブログ。Twitter@sh1roha_468

罪の余白【書評】

こんにちはしろはです。
今回は『罪の余白』(芦沢央/著)を紹介します。
※本文にはネタバレを含む場合がありますので、ご注意ください。

 

 

 

あらすじ

 

高校のベランダから転落した加奈の死を、父親の安藤は受け止められずにいた。娘はなぜ死んだのか。自分を責める日々を送る安藤の前に現れた、加奈のクラスメートの協力で、娘の悩みを知った安藤は。
(本書より引用。)

 

人物紹介

 

安藤聡:動物行動心理学を専門とする大学の講師。
安藤加奈:八歳の頃、母親を亡くした。高校のベランダから転落死した。
小沢早苗:対人関係が苦手なことから心理学を専攻。聡と同じ大学の講師。
木場咲:加奈のクラスメート。才色兼備。
新海真帆:同じく加奈のクラスメート。いつも咲と加奈の三人で一緒にいた。

感想

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今回は一人の女子高校生が突然死したことから始まる一冊です。
その女子高校生の加奈、父親の聡、同僚の早苗、加奈の友人である咲と真帆といった複数の視点から物語が展開されます。

各視点で日付や時刻の記載がありますが、ミステリー要素はないので正確に時刻を覚えておく必要はありません。
気にせずに読んでいただけたらと思います。

加奈の自殺

物語冒頭は加奈の視点で始まります。

どうしよう、お父さん、わたし、死んでしまう。
(本書より引用。)

このセリフからわかるように、加奈自身は自殺しようとしたわけではないことがわかります。

ただ、現場を知らない父親の聡は、加奈が自殺してしまったと捉えることしかできない。
加奈の死を受け止められないことから事件の真相を追究することに。

加奈は事故当時どのような状況にあったのか、父親の聡はそのことを知ることはできるのか。

父親の気持ちを考えると耐え難い場面ばかりでしたが、最後まで飽きることなく読めることができました。

ネタバレありのコメント

これからはネタバレありのコメントをつらつらと書きますので、見たくないという方はここまでとしてください。
これまで見てくださり、ありがとうございました!

 

咲という人物

この木場咲という人物の恐ろしさ、悪女ぶりには目を見張るものがあります。

はっきり言って、怪物以外の何者でもありません。
才色兼備なのは本人の勘違いなのではないか?と思いながら読んでいましたが、これは事実なようですね。

加奈を虐げることとなったのは、加奈が発したとある発言。
加奈が気に入らないから、芸能界入りさせてくれない環境が気に入らないから、というだけでここまでことが大きくなった。

加奈の自殺後も、自身に害が及ばないように執着する執念深さは、恐ろしいという単純な表現では形容しがたい。

本作品は映画化もされているようで、映画ではこの咲の悪女ぶりに磨きがかかっているようですね。
何か機会があれば見てみたいと思います。(あまり気は乗りませんが・・・。)

 

早苗さんという人物

早苗さんがいなければ、加奈の真相も明らかになってなかったのではないでしょうか。
聡の義母から頼まれたという単純な動機ではありますが、彼女がいなければこの作品は全く成立していなかった。

対人コミュニケーションが苦手で苦労しながらも、他者を理解しようとする姿勢にはどこか暖かい気持ちになりました。

早苗さんはベタが好きということでしたが、私は姿かたちが想像できなかったので調べてみました。

ベタ - Wikipedia
(Wikipediaより引用。)

熱帯魚であることからも、様々な色のある奇麗な魚ですね。
人に懐いてくれる鑑賞魚として人気があるようですね!

物語終盤、咲が少年院に入った後も聡を献身的に支える姿勢には胸を撃たれました。
聡も加奈の死が自殺ではなかったということがわかって本当に良かったです。

そして、早苗さんは是非とも幸せになってほしいとも思いました。
今後、早苗さんがどのような人生を歩むのか気になります。

 

学生の自殺

ふと気になったので、昨今の学生自殺者数はどのくらいいるのか調べてみました。

【参考資料4】令和2年 児童生徒の自殺者数に関する基礎資料集 (mext.go.jp)
(厚労省より引用。)

ここまでの方が自殺という選択肢を取ってしまっていると考えると、非常に胸が痛くなります。
原因としては、親子関係のトラブルや学業不振、進路に対する不安が多いようです。

周りからの過度な期待とか重圧に耐えられない場合とかもありそうですね。


今回の作品を読んだ後だと、自殺が原因の例って他よりも少ないんだなと思いました。
それともいじめは学校側の管理不足となりやすいため、認知されにくいのでしょうか。

どうして周りの人は助けなかったのか、本人も助けを求めなかったのか。
後から、外部から非難するのは簡単ですが、いざ関係者だとしたら気付けるのでしょうか。

助けを求めやすい環境にするにはどうしてあげればいいのか。
そんなことを考えると、何が必要かわからなくなります。

私はこれまで、会話の機会を多数設けてあげれば良いと思っていました。
ただ、今回の作品は決して父娘の関係性は悪くなかった。

取り返しのつかない事態となる前に、些細なことでも気付けるような大人でありたいと思いました。
教育って本当に難しいことだなと再認識しました。

今回はこの辺で。
閲覧くださり、ありがとうございました。
またの機会にお会いしましょう。