活字紀行

自分自身に満足を。つらつらと書評ブログ。Twitter@sh1roha_468

きのうのオレンジ【書評】

こんにちはしろはです。
今回は『きのうのオレンジ』(藤岡陽子/著)を紹介します。
※本文にはネタバレを含む場合がありますので、ご注意ください。

 

 

 

あらすじ

 

三十三歳の遼賀が受けた胃がん宣告。どうして自分が…涙が溢れてきて、恐怖で震えが止まらない。その時、郷里の岡山にいる弟の恭平から荷物が届く。入っていたのは、十五歳の頃、恭平と山で遭難した時に履いていたオレンジ色の登山靴。それを見た遼賀は思い出す。あの日のおれは、生きるために吹雪の中を進んでいったのだ。逃げ出したいなんて、一度たりとも思わなかった―。
(本書より引用。)

 

人物紹介


笹本遼賀:トラモントというレストランの店長。胃がんと申告された。
笹本恭平:遼賀とは兄弟にあたる。地元で体育教師をしている。
矢田泉:遼賀が病院で出会った看護師。高校で同級生だった。
高那裕也:遼賀が請け負う店舗のアルバイト。

 

感想

wheelchair hospital

今回は胃がんを申告された一人の男性を中心に描いた作品です。

正直な話、ここ最近読んでいて一番感動した一冊かもしれません。
自分がどういった点に感情移入してしまったのかは後述したいと思います。
こういった病気がテーマとなった小説ってたくさんありますが、特に私に刺さりました。

ネタバレにならない範囲で言うなら、彼が決して孤独ではなかったということ。
そばにいてくれる家族愛の素晴らしさをこれでもかと感じたからですかね。

ただただ悲しいだけで終わらないのが本作品の一つの魅力かと思います。
また、作中では山登りの描写があるのですが、自然の恐ろしさも感じました。

雪山で遭難するシーンがあるのですが、兄弟愛の強さを感じたシーンでとても好きです。
本当に読んで良かった一冊です。
また何かの機会に読み直したいと思います。

ネタバレありのコメント

これからはネタバレありのコメントをつらつらと書きますので、見たくないという方はここまでとしてください。
これまで見てくださり、ありがとうございました!

 

全体を読み終えての感想(ただの独り言)

正直な話、ここ最近読んでいて一番泣きそうになった一冊かもしれません。
なんなら人前で読まずに家で読んでいたら確実に泣いていました。

遼賀はどうしてあそこまで幸せそうな最期を迎えられたのでしょうか。
もし、自分が彼の立場だったら?そう考えると、ああいう風には決して思えません。

終盤では遭難した際に書き残した手紙(遺書)が出てくるのですが、彼はこのように書き残しています。

でもぼくはかわいそうではありません。ぼくの人生は本当に幸せでした。
(本書より引用。)

まだ彼は子供の段階ですよ?
どうしてここまでの感情を覚えられるのでしょうか。

対して、まだまだやりたいことばかりだと言う恭平。
だが、遼賀はがんを申告されてもう死ぬかもしれないと思う瞬間まで変わらない。

彼の強さは何なのだろう。決して諦めたという感じはしない。
がんを通して、彼が電話を掛けられるような存在に気付いた。
果たして自分はどうなのだろうか?と考えると思わず泣きそうになりました。

意外と人間って孤独じゃないんだなって本当に思いました。
何気なく再開した泉と出会って物語が始まったわけですが、恭平や泉、高那や遼賀の母と祖母。
決して誰か一人でさえもかけてはならない素敵な作品でした。

何を伝えたかったのか(これもただの独り言)

さて、それ以外で感じたこともつらつら書きたいと思います。
遼賀の病気とは関係ないシーンでこのような表現があります。

 

世の中には自分の非を認めない人間が多すぎる。自分に不利なことが生じれば、すぐに他人のせいにする。「怖かった」「傷ついた」と訴えれば誰でも被害者の顔になる。
(本書より引用。)

恭平が体罰だとして非難される場面です。

何気ない一文でしたが、最も共感した部分かもしれません。
昨今だと事あるごとに炎上したりとかバッシングをさたりとか、よく見かけますが過剰なんじゃないですかね?と思うことが多々あるんです。

作中の体罰もそうですが、著名人の不倫問題とか。
不倫問題に関しては、別に私たちが被害を受けたわけでもないのにそこまで非難することなのかなぁとぼんやりと思っています。

体罰に関しては、当事者にならないとわからない部分も多くあると思いますし。
まぁどこまでが指導でどこからが体罰なのかとか考えると難しい問題ですよね。

これほどまでに情報化社会が発展し、その気になれば情報なんていくらでも切り貼りして発信できるからこそ厄介なんですよね。

小説を人よりは多く?読んでいる私からすると、他人に感情移入できることって素晴らしいことだと思うんですが、他人の感情に振り回されて自分の信念みたいなものがぶれることってとても愚かなことだと思います。

情報化社会だからと言ってなんでも吸収しようとせずに、適度に取捨選択することがとても重要だなと改めて思いました。

まずは自分のこと、そして自分のことを親身に考えてくれる人は大切にしたいです。


今回はこの辺で。
閲覧くださり、ありがとうございました。
またの機会にお会いしましょう。