活字紀行

自分自身に満足を。つらつらと書評ブログ。Twitter@sh1roha_468

みかづき【書評】

こんにちはしろはです。
今回は『みかづき』(森絵都/著)を紹介します。
※本文にはネタバレを含む場合がありますので、ご注意ください。

 

 

 

あらすじ

 

昭和36年。小学校用務員の大島吾郎は、勉強を教えていた児童の母親、赤坂千明に誘われ、ともに学習塾を立ち上げる。女手ひとつで娘を育てる千明と結婚し、家族になった吾郎。ベビーブームと経済成長を背景に、塾も順調に成長してゆくが、予期せぬ波瀾がふたりを襲い―。山あり谷あり涙あり。昭和~平成の塾業界を舞台に、三世代にわたって奮闘を続ける家族の感動巨編!
(本書より引用。)

 

人物紹介

大島吾郎:小学校の用務員を経て、学習塾教師・経営者に。
大島千明:学習塾教師、経営者。
  蕗子:大島家の長女。吾郎との血のつながりはない。
   :大島家の次女。
  菜々美:大島家の三女。
赤坂頼子:千明の母。大島三姉妹の祖母。
(本書より引用。)

感想

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今回は昭和から平成に至るまで、三世代をめぐって描かれる家族作品です。
舞台としては千葉、テーマとしては塾といった子供の勉強となっています。
津田沼や八千代といった地名が出てくるので、近辺に住んでいる方には馴染みやすい内容かと思います!

ぜひとも、教育にかかわるお仕事をされている方には一読いただきたい一冊だと思います。
主人公らは学校ではなく塾にかかわる人たちでしたが、その視点ならではの視点が伝わってきました。

私も幼い頃から塾に通わせてもらっていた立場でしたが、通うのが楽しくて仕方なかったことは一度もありませんね。(私の親、ごめんなさい。)
一時は、なんで勉強ってしなくてはならないんだろう?と思ったこともありました。

そういった時に、作中で登場した吾郎のような教師に出会えていたら、また違ったんだろうなぁと読んでいて思いました。

大人になってから、勉強が楽しくなった口ですけどね。
もっと幼い頃にこの事実に気付けていたら、もっと選択肢も多かったのだろうなんて思いました。

昨今は教育だけでなく教師不足も嘆かれていますが、ひとえに教育といっても文句を言うのは簡単ですもんね。
実際に吾郎やほかの登場人物のように何らかの行動をできる人は本当に立派だなと思いました。

内容としては昭和から徐々に時代が進んでいくという作風でしたが、節目節目にはいったい何があったのだろう?と想像し、後に内容が明らかとなっていくという展開がとても私好みでした。
今回もボリュームもある一冊でしたが、教育に携わる方は一読くださればと思います。

 

ネタバレありのコメント

これからはネタバレありのコメントをつらつらと書きますので、見たくないという方はここまでとしてください。
これまで見てくださり、ありがとうございました!

 

全体を読み終えての感想(ただの独り言)

一番思ったことは、教育なんていつの時代も変わらないんだなって思いました。
昭和から平成に至るまで教育というものが様々な形で書かれていましたが、いつだって苦労している人でもどうしようもないんことはどうしようもないんだなって思いました。

今回は家族作品でしたが、中盤あたりで頼子が逝去したあたりで、おいおいこの作品はこれからどうなっていくんだ、と不安になりながら読んでいました。

頼子という名前だけあってか、作中では何かと頼りになっていた頼子がいなくなったことで、すべてがばらばらとなっていきました。
千明と吾郎だけでなく、蕗子や菜々美までもが。
終盤では綺麗に収まっていて本当に良かったです。

あと、年齢が近いこともあって?最後の一郎視点が一番私には刺さりました。
一郎と同じくゆとり世代ではありませんでしたが、実際に片親家庭で勉強に苦しんでいる同級生もいたのだろうなと思ってしまいました。

その事実に気付き、学習を無償提供しようと奮闘する様は本当に格好良かったです。
謝辞のところでNPO法人キッズドア様の名前が出てきましたが、こういった活動をされている団体がいることさえ私は知りませんでした。
簡単に寄付することができるそうなのでしてみようと思います。

教育の現場において、ひとえにこいつは勉強ができない、やる気がないと一蹴してしまうのは違うんだなと。
だからといって、一教師がすべての面倒を見られるはずがない。
教師とは数が減りゆく中で、家族からの文句や生徒間のトラブルも対処しなければならなく、本当に大変な仕事なんだと改めて思いました。

国がなんとかしてくれねぇかなぁ、とぼんやり思っていたこともありましたが、いつの時代も問題があって当然だったんだなと思わされました。

「自分の頭でものを考える力を育む」教育
(本書より引用。)

千明はこういった思想の下、教育に携わっていたそうですが、言葉にすると実にシンプルですが、実際に実現しようと思ったら非常に難しいですよね。

私自身もこういったことができる学生であったとはなかなか思えませんし、ではどういった教育を施したらいいのかと考えると、これまた難しいものですね。

教育の在り方を教えてもらえたような気がします。
私自身、決して勉強が得意な生徒ではありませんでしたが、勉強が少しでも好きになってくれる人が多くなってくれることを願っています。
何らかの形で寄与できないかなと、ぼんやり考えてみます。

何を伝えたかったのか(これもただの独り言)

なんといっても教育とはどうあるべきなのか、ということに尽きるのでしょうね。
"みかづき"というタイトル名はなんと秀逸なことでしょうか。

作中最後に出てきた吾郎のスピーチが全てなんでしょうね。

 

どんな時代のどんな書き手も、当世の教育事情を一様に悲観しているということだ。最近の教育はなっていない、(中略)常に何かが欠けている三日月。教育も自分と同様、そのようなものであるのかもしれない。欠けている自覚があればこそ、人は満ちよう、満ちようと研鑽を積むかもしれない、と
(本書より引用。)

これ本当に良い表現だなと思いました。
自分が欠けているという自覚があるからこそ勉学に励む。
かつての偉人達も決して才能があった人ばかりではなく、血のにじむような努力によって偉業を成しえた人もいる。

自分ではまだ足りない、と貪欲に取り組むことの大切さを教えてもらえた気がします。
大人になった今でも、勉強って楽しい事なんだと気づけて良かったです。

常に自分の足りない部分を補えるように精進したいと思いました。
本当に読んで良かった一冊です。勉強する励みにもなりました。

今回はこの辺で。
閲覧くださり、ありがとうございました。
またの機会にお会いしましょう。