活字紀行

自分自身に満足を。つらつらと書評ブログ。Twitter@sh1roha_468

ボクたちはみんな大人になれなかった【書評】

こんにちはしろはです。
今回は『ボクたちはみんな大人になれなかった』(燃え殻/著)を紹介します。
※本文にはネタバレを含む場合がありますので、ご注意ください。

 

 

 

あらすじ

 

それは人生でたった一人、ボクが自分より好きになったひとの名前だ。気が付けば親指は友達リクエストを送信していて、90年代の渋谷でふたりぼっち、世界の終わりへのカウントダウンを聴いた日々が甦る。彼女だけがボクのことを認めてくれた。本当に大好きだった。過去と現在をSNSがつなぐ、切なさ新時代の大人泣きラブ・ストーリー
(BOOKデータベースより引用。)

 

人物紹介

 

ボク:アートディレクター。Facebookで知り合いかも?と表示された彼女に意図せず友達申請を送ってしまう。
かおり:かつて"自分よりも好きになってしまった人"。自称ブス。

 

感想

今回はどこか"エモさ"を感じる一冊です。

舞台は現在と過去である90年代を行き来します。
時代を行き来するため、少々読み辛い部分があるかな?といった印象です。
ただ、各伏線が徐々に回収されていくので、一気にサラッと読めるかと思います。

本作品の魅力は"エモさ"に尽きると思います。
簡単にこの言葉で表現してしまうのは失礼かと思いますが、私にはほかの表現が見当たりません。
個人的に、読んだことのない小説のタイプでした。

現在はアートディレクターとして働くボクが、ひょんなことから自分よりも好きになってしまった彼女との思い出を思い出すことに。
彼女との思い出は、思わず自分もこんな経験があったなぁと自己投影してしまうほど。
実際にそのような経験はしていないのに、そう感じてしまうのはどうしてでしょうか。

恋愛に関して、大きな失敗をしたことがある方には共感する部分が多いのではないでしょうか。
読了後には、思わず自身の思い出を振り返ってみたくなるような一冊でした。
是非読了後には、こんな素敵な思い出もあったなぁと懐かしい気持ちになってもらえればと思います。

本作品を表すなら、
取り戻せない過去を煌めかせる一冊。
と私は表現したいです。

 

ネタバレありのコメント

これからはネタバレありのコメントをつらつらと書きますので、見たくないという方はここまでとしてください。
これまで見てくださり、ありがとうございました!

 

物語の結末

今回も特にネタバレのようなコメントとはなりませんが、全体を読み終えての感想を少し。

本作品は著者である燃え殻さんの実体験が元となって小説になったようですね。
実際に私が燃え殻さんのような経験をしたことはないのにどこか思い出す日々がある、ような気がする。

恋愛が一つのテーマとなっていますが、少々昔の恋愛を思い出してしまいました。
今となっては、戻ることのできない一つの思い出として刻まれていますが、どこかその色あせてしまった過去の経験を思い出させてくれるような一冊でした。

まさに"エモい"。この言葉だけで片付けてしまうのは簡単ですが、私にはこの何とも言えない懐かしくどこか儚さを感じる読了後の感想を表現することはできません。

現代と過去。
作中では行き来しながら描かれていきますが、ふとした瞬間に過ぎ去ってしまったあの瞬間を思い出しているのかも?と思いました。
行ったり来たりするのが、少々読みにくいと感じる方もいるかもしれませんね。

作中で舞台となる90年代にたくさんの思い出がある方はまた感じ方が異なるのではないでしょうか。
何気ない風景や時代背景など、独自に感じることがきっとあるはずです。

昔ならではの不便な文通、そして今ならではの手軽なSNS。
こういった大局的な比較もどこか"エモさ"を感じるポイントなんでしょうね。

小説でありながらも、エッセイらしさも兼ね備えた一冊でした。
読んで良かったです。

好きな表現

個人的に好きな表現を一つ紹介します。

 

ボヤいている人がいる。はしゃいでいる人、怒鳴っている人、甘えている人もいる。みんな広い世界を覗いて、片手に収まる窓を開けて満足しようとしている。ボクはときどき、急にその場所が息苦しくなる。見えない窮屈なルールを感じる。
(本書より引用。)

 

時たまに、「ここではないどこかに行きたい」と言いたくなってしまうような心情を表した、とても風情のある表現だと思いました。

どこからともなくやってくるあの感情は何なんでしょうかね。
家にいながらも、帰りたいと感じてしまう人も見かけたことがあります。

ふとした瞬間に寂しさを感じてしまう、あの頃は良かったと感傷に浸ってしまう。
人とはなんて孤独ながらも美しいものなんでしょうか。
一人でひっそりと読むことにオススメしたい一冊です。

今回はこの辺で。
閲覧くださり、ありがとうございました。
またの機会にお会いしましょう。