活字紀行

自分自身に満足を。つらつらと書評ブログ。Twitter@sh1roha_468

六人の噓つきな大学生【書評】

こんにちはしろはです。
今回は『六人の嘘つきな大学生』(浅倉秋成/著)を紹介します。
※本文にはネタバレを含む場合がありますので、ご注意ください。

 

 

あらすじ

 

成長著しいIT企業「スピラリンクス」の最終選考。最終に残った六人が内定に相応しい者を議論する中、六通の封筒が発見される。そこには六人それぞれの「罪」が告発されていた。犯人は誰か、究極の心理戦スタート。
(本書より引用。)

 

人物紹介

 

波多野祥吾立教大学で経済学を学ぶ。散歩サークルに所属。
久賀蒼汰:慶応大学総合政策学部在籍。爽やかな印象でチームを先導する存在。
袴田亮明治大学在籍。高校時代は野球部でキャプテンを務め、気合と根性は負けないと自負。
矢代つばさお茶の水女子大在籍。容姿端麗でファミレスでアルバイトをしている。
蔦衣織早稲田大学社会学を学ぶ。バイト先はプロント。
森久保公彦一橋大学在籍。賢そうな雰囲気で寡黙な性格。

 

感想

computer keyboard

今回は就活を行う大学生6人に焦点を当てた一冊です。

読み始めて一番最初に思ったことは、これ新卒採用前に読まなくて良かったなぁと心の底から思いました。
読み終わった後に就職活動とか考えたくないですもん・・・。

就活のシーズンに読まなくて良かったぁ!と思っていましたが、共感する部分や考えさせられる表現、先の読めない展開など非常に満足な一冊でした。
個人的に、ここ最近読んだ小説の中で一番読んで良かった一冊だと思います。

長期間のグループディスカッションを行い、自身たちで入社する人物を選ぶという、現実ではありえない選考が行われています。
所詮はフィクションなのでそれも含めて楽しんでもらえればなと思います。

一番唸った表現を紹介します。

あんなに無意味な時間ってなかったと思うよ―就活。企業に気に入られるためにみんなして嘘ついて、一方の企業だって自分たちにとって都合のいいことしか伝えようとしない。
(本書より引用。)


理解はしていますが、こうはっきりと言われると心に来るものがありますね・・・。
タイトルにもありますように、誰もが嘘をつきながら就職活動に取り組んでいる。
就職活動の時期しか感じることのできない苦悩が表現されていて、読みごたえが非常にありました。

考えさせられる内容でありながらもミステリーとしても楽しめて、読了後はどこかすっきりとした気持ちになれる一冊でした。

ぜひとも読んでもらいたい一冊です。

 

ネタバレありのコメント

これからはネタバレありのコメントをつらつらと書きますので、見たくないという方はここまでとしてください。
これまで見てくださり、ありがとうございました!

 

物語の結末

犯人は誰なんだ、と展開されていきましたが、謎が解決したなぁと油断するのも束の間で次から次へと新たな謎が発生し、本当に読む手が止まらなかったです。

ははーん、これは森久保が犯人で終わりだな?と思っていた自分の浅はかさが恥ずかしいです(笑)

過去の描写が終わった段階で蔦が犯人だと思い、ここからどういう展開になるんだ?と思いました。
そしたら蔦視点の物語が始まり、蔦が犯人ではないことが判明。
何なら、蔦は波多野が犯人だと思っていた。

もう謎は迷宮入りですよ。
最近、私がハマっている某漫画のト○○チゲームみたいでワクワクが止まりませんでした。

これ、最初から謎がわかった人とかいるんですかね?
そして犯人の犯行目的は、真っ向から非難できるものではありませんでした。

本当にあの就職活動というのは、どこか精神が不安定な気がしてたな、と思い出されました。

誰しもが嘘をつき、そして自分の一面を隠している。
悪い面が見えたからと言って簡単に非難するのは間違っている。
読了後にはどこか優しくなれる一冊でした。

就職活動に関して

なんだか、自分の就職活動が懐かしく感じるような一冊でした。
前半ではグループディスカッションが1つのテーマとなっていましたが、あれは苦労ばかりだったなぁと当時の記憶が色濃く思い出されました。

さすがに本書のような長期間でのグループディスカッションはありませんでしたが、グループディスカッション後にカフェに行くみたいなイベントはあったんですよね。

当時も疑問でしたが、本当に不思議な関係性ですよね。
今となっては誰とも連絡を取ることはできませんが、鮮明な思い出として残っています。

ただ、あれ必要だったの?という話になると甚だ疑問ですが・・・(笑)
あの時期しかできない貴重な経験として刻んでおこうかと思います。

本書では以下のような表現もされていました。

将来的に何をやらせるのかは決まっていないけど、何となく向こう数十年にわたって活躍してくれそうな、なんとなく、いい人っぽい雰囲気の人を選ぶ。
(本書より引用。)

やっぱり最後は圧倒的に『運』です。学生が不完全な人間であるように、人事だって不完全な人間なのですから、やっぱりこの世界に絶対はないわけです。
(本書より引用。)


じゃあどうすればいいんだ、と学生も企業も頭を抱えてしまいますよね。
明確な答えがないからこそ、現状維持に頼ることしかできない。
近年だと学生のSNSを調査して選考に利用しているとの話もありますが、どれほどの効果があるのでしょうか。

本作品でもありました、人間には善い面と悪い面がある可能性がある。
これは、たとえどれだけ親しい間柄だったとしても人間性はわからないのではないか。

結局は他人であって理解できないこともある。
そんな中で、多数の学生から適切な人材を選ぶ就職活動。
え?無理すぎませんかね??

中途採用だったら実績や技術力で測ることはできますが、新卒採用では一概にそういったことはできない場合が多い。
日本の就職活動は間違っている!と非難するのは簡単ですが、何が正解かなんてわかりませんよね。
これがわかっていたら、いわゆる"バイトテロ"も起こらないですもんね。

当時の就職活動を活動を振り返るとともに、今後控えた学生を応援したいです。

今回はこの辺で。
閲覧くださり、ありがとうございました。
またの機会にお会いしましょう。