活字紀行

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こちらあみ子【書評】

こんにちはしろはです。
今回は『こちらあみ子』(今村夏子/著)を紹介します。
※本文にはネタバレを含む場合がありますので、ご注意ください。

 

 

 

あらすじ

 

あみ子は、少し風変わりな女の子。優しい父、一緒に登下校をしてくれる兄、書道教室の先生でお腹には赤ちゃんがいる母、憧れの同級生のり君。純粋なあみ子の行動が、周囲の人々を否応なしに変えていく過程を少女の無垢な視線で鮮やかに描き、独自の世界を示した。
(本書より引用。)

 

人物紹介

 

あみ子:田中家の長女として育てられた。学校には行かないこともしばしば。
:あみ子の兄。名前は考太。とある時期を境にして不良になる。
:あみ子たちの母親。自宅で書道教室を開いている。お腹には赤ん坊がいる。
:あみ子たちの父親。優しい性格。
のり君:あみ子のクラスメイト。書道教室に通う一生徒。

 

感想

今回はとある少女の周りで起こる日々を綴った作品です。

とは言うものの、読了した後味はあまり良くないです。
決して良い気分で読み終える作品ではないので、そういったものが苦手な方はご注意ください。

主人公のあみ子が周囲から気を遣われながらも、純粋に生きる様を描いています。
読んでいる私たちにも理解できない言動があるのではないでしょうか。

そういった言動に理解できず、思わず不快感を覚えてしまう方もいると思います。
私自身、良い気持ちがしない場面が多々ありました。

読了後に一番感じた感想は、"恐怖感"これに尽きました。
怖い作品だった、理解しがたい作品だったと一言で片付けてはいけないものだと思いました。

純粋だからこそ、周囲にとらわれることなく生きていけるという考え方も、もしかしたら幸せな事かもしれませんよね。
私には何が正しいのかわからなくなってしまいましたが・・・。

興味のある方はぜひ一読ください。
きっとあなたにも、何か考えるきっかけを与えてくれると思います。

ネタバレありのコメント

これからはネタバレありのコメントをつらつらと書きますので、見たくないという方はここまでとしてください。
これまで見てくださり、ありがとうございました!

タイトル名

こちらあみ子というタイトル名が何を示しているのか。

作中にはトランシーバーをもらうあみ子が描かれています。
このトランシーバーは、生まれてくるであろう弟(あみ子が弟と思い込んでいただけであって、本当は妹だった)と一緒に遊ぶためにもらったものでした。

しかし、実際に弟(妹)はできずにあみ子はこのトランシーバーを一人で使うことになります。
「応答せよ、応答せよ、こちらあみ子」と呼びかけても誰も応じてくれることはない。

そんなあみ子の、誰にも理解してもらえない孤独さを表していると思うと胸が痛くなります。

思わず目をそむけたくなってしまうほど悲しく、どうしようもない徒労感に思いやられることとなってしまいました。

短いながらも、あみ子の孤独さを表現した秀逸なタイトル名だと思いました。

あみ子に出会ったらどうすればいいのか

では、実際に近くにあみ子のような人物がいればどうすればいいのか。

正直、全くわかりませんでした。
あみ子の言動は全く理解できない場面が多すぎたので、実際にそのような現場に立ち会えば、絶句するしかないと思います。

弟の墓を手作りしたシーンには、思わず一度本を閉じてしまいました。
あみ子は良かれと思ってやったことだと伝わりますし、単純に悪いことだと伝えるだけで良いのか。

どうせ伝わらないんじゃないか、理解してもらえないんじゃないか。
そう思うと息苦しさを感じずにはいられません。

純粋だからこそ、一方的に非難するのは間違っているのではないか。
では何が正しいのか、そう考えると答えのない中でもがいて悲しくなります。

以前読んだ『推し、燃ゆ』とは違った息苦しさを感じました。
『推し、燃ゆ』では主人公の息苦しさ、本作では本人だけでなく周りの人間の息苦しさがひしひしと伝わってきました。

理解してあげようよ、寄り添ってあげようよ、と外部から口を出すのは簡単だが、当事者となったあなたや私には何ができるのか。

そういうことを考えさせてくれるきっかけを与えるという意味では素晴らしい一冊だと思います。

アルジャーノンに花束を』という作品がありますが、そちらとも違った良さがあるように感じました。

参考としてこれらのリンクも貼っておきます。
興味のある方はぜひ読んでみてください。

 


今回はこの辺で。
閲覧くださり、ありがとうございました。
またの機会にお会いしましょう。