活字紀行

自分自身に満足を。つらつらと書評ブログ。Twitter@sh1roha_468

夜市【書評】

こんにちはしろはです。
今回は『夜市』(恒川光太郎/著)を紹介します。
※本文にはネタバレを含む場合がありますので、ご注意ください。

 

 

 

あらすじ

 

妖怪たちが様々な品物を売る不思議な市場「夜市」。ここでは望むものが何でも手に入る。小学生の時に夜市に迷い込んだ裕司は、自分の弟と引き換えに「野球の才能」を買った。野球部のヒーローとして成長した裕司だったが、弟を売ったことに罪悪感を抱き続けてきた。そして今夜、弟を買い戻すため、裕司は再び夜市を訪れた――。(本書より引用。)

 

人物紹介

裕司:小学生の頃に夜市に迷い込み、弟と引き換えに野球の才能を買った。
いずみ:裕司とは高校時代の同級生。現在大学2年生。
老紳士:夜市で2人と出会い、案内してくれることに。

:幼い頃、誰も知らない長い路地へ迷い込んだことがある。
カズキ:私の親友。私とその長い路地に行ってみようと提案する。
レン茶店で出会った青年。出口まで案内してくれることに。

 

感想

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夜市、風の小道、共に出口のわからない異世界に迷い込むことになります。
まさにホラー小説と呼ぶに相応しく、恐怖感や不気味さを感じられる作品です。

私自身、ホラーはあまり得意ではないですが、とても楽しめました。
本当に自分がこの異世界に迷い込んでしまったのでは?と手に汗を握りながら読んでいました。

夜市には自分の望むものが売っている。
だけど、何かを買うまでは決して出ることができない。
迷い込んでこの先どうなってしまうのだろう、とハラハラしながら読めました。

風の小道でも時々刻々と追い込まれ、私はどうなってしまうのだろうと考えずにはいられません。

 

ネタバレありのコメント

夜市では弟を失ったものの、いざ現実世界に戻ったら弟はもともと存在していなかった世界線となった。
兄の裕司も本当は弟なんていなかったのでは?と思ってしまうほど。

それでも、どこか罪悪感を感じる日々。
どこか充足感のない日々。
弟も報われない生活を過ごすことに。
彼らの過ごした日々、そしてこれからの生活を思い浮かべるだけで切なくなります。

結末はどこか不気味さを残しつつフェードアウトしていくので、どこか背筋が凍る思いでした。

一緒に行った男の人はどんな人だったっけ。いや、思い出さなくてもいい。(中略)それが彼女に再び巡るそのときまで。

これは成長の物語ではない。何も終わりはしないし、変化も、克服もしない。(中略)私だけではない。誰もが際限のない迷路のただなかにいるのだ。

ブログを書きながらこの結びを改めて読みましたが、何とも言い難い余韻に浸れました。

ホラー小説の中で一番好きな作品かもしれません。
私は異世界というか、SF要素の強い作品が大好きなので。

読んでくださりありがとうございました。
またの機会にお会いしましょう。